珪素生物

By in science, story, short short on 2015-05-19
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 今回は意外と身近にあるガラスなどのアモルファス、そして硅素生物について語る。

 まず、アモルファスと言われるとどんな物が想像されるだろうか。正確にどんな物か言える人はそういないだろう。

 意外と知られていないが、ガラスはアモルファスである。ガラスの学名はAmorphous glassisという。学名?そう、アモルファスは生物の分類の一種である。

 アモルファスは、一般的な生物、すなわち細胞や遺伝子を持つもとは異なったタイプの生物である。代謝を行い活動するという意味での生物であり、一般の生物とアモルファスとの関係は、動物と植物の関係の様に「表面的には」異質である。しかし、その根本は同じである。

 今まで「一般的な生物」と述べた物は、専門的には炭素系生物という。
炭素(Carbon 元素記号C)は、その反応性の高さのため様々な化学物質を作る。その化学物質は生命体を構成したり、エネルギー源となることが可能なほど多種多様な形態を取る。
さて、ここで元素の周期表を思い出してもらいたい。
周期表では、縦に列んだ物を族と呼び、族の元素の性質は似ている事が知られている。
では、炭素の下には何があるだろう?そう、硅素(Silicon 元素記号Si)である。
この硅素が炭素と同様の化合物を作りうるわけであり、それらによって構成された生命体がアモルファスを含めた硅素生物である。

 硅素とは、簡単に言えば「石」の事である。
石には様々な種類があり、それは硅素が多数の化合物を作る証拠でもある。しかしながら、石は硬く、反応性が高いようには見えない。
そう、先に述べた事と矛盾するようだが、硅素の反応性は低い。その原因は、地球上の温度が珪素が高い反応性を示すに足るほど高くないからである。すなわち、反応に必要な活性化エネルギーを得る事が困難だからである。
つまり、地球上でのアモルファスは、いわば休眠していると言えるほど不活発な状態である。

 硅素生物は、全体が均一な組織より構成される。それゆえ様々な形状をとり、熱、光、あるいはある種の化学物質をエネルギー源とする。ガラスを例に挙げて説明してみよう。

  1.   組織:
    組成に片寄りが無い事は今更説明する必要もないだろう。たとえ片寄りがあったとしても、ブラウン運動による拡散で均一になっていく。それゆえ、特定の急所を持たない。
  2.   形状:  窓ガラス、コップなど、ある程度目に見える形を取る。超高温下にさらすなどして、いわゆる「死んだ」状態にされたガラスは灰の様になり崩れ落ちる。
    融ける温度は十分な活性化エネルギーが得られる快適な温度であるに過ぎず、死ぬ温度に比べれば極めて低い。
    自身の見かけ上の硬さにより割れ、粉々になる事はあるが、それは生命体としての死ではない。
  3.   エネルギー源:
    ガラスは透明なのでそうは思われないかも知れないが、主たるエネルギー源は光である。光と言っても大部分が不可視な波長の光(主に紫外光)であり、そのため視覚ではわかりにくい。
    紫外線遮断サングラスなどはこの性質を使ったものである。また、太陽電池の材料としても使われるAmorphous ciliconei(アモルファスシリコンと言われるもの)でもこの傾向が高い。
    光で足らないエネルギーは塩素などの化学物質を吸収・代謝することで補う。そのため、塩素を入れるガラス瓶は着色し、色による光の吸収率の増加と、赤外光による熱発生でガラスの塩素吸収を押さえるのである。

 決まった急所を持たず、特定の形状を持たず、光をエネルギー源をするあたり、植物的な性質が多くみられる。それは、不活発なゆえの特性であると言われている。

 このような硅素生物の中でもアモルファスは特殊で、動物的な部分を持つ。
それは、動くのである。
動く、と言っても硅素生物としての制約があるので、人の目には流れているようにしか見えないし、極々低速である。それも、何十年で何ミリという動きである。
これは、古い教会のステンドグラスなどで観測できる。長い年月が過ぎても変形しない金属製の枠に対し、ガラスの部分は下の方が広がっているはずだ。
そのようなステンドグラスでは、色素がガラス表面の方に集まってるのがわかると思う。これは、不純物である色素をエキソサイトーシスにより外に出そうとしているためである。

 何百年、いや、何千何万年のサイクルで生きる硅素生物は、地球の炭素生物が全て死滅しるような遥か未来でも彼らは生き続けるだろう。
彼らの築くであろう、炭素系生物とは異質な文化が、いったいどのようなものか知り得ないのは残念である。
もしかしたら、すでに現在築きつつあるのかも知れない。
あるいは、築いているがわれわれ炭素生物が気づかないだけかもしれないのだ。

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